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【吐く息ひとつ】
 


「寒いなぁ」



口に手を当てれば、ほんの少しだけ自分が放ったぬくもりを取り戻せる。

僕は些細な熱すらも逃すまいと、手を当てたまま息を吐いた。



一方君が吐き出した吐息は、自由に雲になって流れていく。



「惜しくはないの?」



“何が?”



君の目が逆に問い返す。



「手を当てて息をすれば温かいよ。手袋もしていないその手じゃ寒いだろう?」


君は少し赤くかじかんだ手を一瞥したが、特に気にするでもなく目を離した。



「吐き出すままじゃ勿体ない。僕は少しの熱も惜しい程寒い」


僕はぶるっ、と身震いをしてみせる。



「君の息すら欲しいぐらいにね」



呆れたような顔で見返す君。



何か言い掛けたその口を咄嗟に手で塞いでやると、驚いた様子で目を瞬く。



「今度は口で塞いでやろうか?」



耳元で囁けば、紅くなる頬。



君のマフラーをぐい、と引いて、そのまま重ねる息。



やっぱり君の吐息は温かいや。



君も少しは温かくなっただろ?



顔が真っ赤だものね。





そして離れ、足早に歩き出す。


君、照れてるってバレバレだよ。




なんて。



それは僕も同じだけれど。


(君の口に触れた箇所が、まるで冬とは思えない程に熱いんだ。)




07.10.15


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