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【mournful sleeper［Madotsuki＋Secom］】 「では先生には食欲も性欲も睡眠欲も無いと言うの？」 静かな宇宙船内で、窓付きと先生の静かな論議が為されていた。 「それはとてもつまらないことじゃあないかしら。」 「つまらなくはないよ。 僕にはこのシンセサイザーと宇宙船が有れば十分だし、最近は君も来る。 それに、必要に迫られて求めるものは、僕にとっては苦痛なんだ。」 ふぅん、と窓付きは鼻を鳴らした。 よくは分からないけれど、要するに先生はお腹が空いたりしないのね。 「ただ、」 と、青年が言葉を次ぐ。 「睡眠だけは…求める気持が有る。 それは、僕にとって睡眠が逃避の欲求だからかもしれない。」 トウヒ、と少女が口の中で呟く。 トウヒ、トウヒ、トウヒ… その言葉の意味が痛切に解るようでありながら、反面、まるで雲を掴むように判然としない思いに駆られる。 私は何かから逃げようとしているのだろうか？ ああ、ともあれ宇宙船にベッドが有るのはそういう理由なのね。 青年がさらに言葉を続ける。 「食行動と性行動は積み重ね、繋げる、生存の為のプラスの衝動だ。 睡眠も生存には欠かせないシステムだけれど、 他二つとは一線を画すと僕は思う。 デリートとかリセットとか、繋がりを絶つ為のプログラムだ。」 デリート、リセット… 鍵盤に置かれた細い先生の指を見るとも無しに見ながら、窓付きはいつまでも同じ言葉を反芻していた。 次に宇宙船を訪れた時、先生はベッドで眠っていた。 綺麗な額の流線。 神経質そうな眉間。 身じろぎもせず眠る先生は美しかった。 何かから逃げ出したくなったのかしら、と思う。 睡眠が繋がりを絶つプログラムならば、夢は接続解除の為の１プログラムという事になろうか。 では今こうして夢で繋がっている私達は何なのだろう。 いつか夢から覚めた時、先生は、私は―――。 床に座り込んで、ベッドの縁にもたれる。 寝顔がすぐ近くに見える。 先生は私の夢の中で、どんな夢を見るのだろう。 真白な敷布は、先生の心の清廉さか、はたまた虚無か。 或いは、それは私の虚無なのかもしれない。 09.11 [09.09] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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