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【盲目ノ虫[國極]】 「兄様は僕のことが好きですか？」 不意に問われ、振り返ると黒い双眸の弟が真剣な眼差しをこちらに向けて立っていた。 「何なんだ、急に」 「僕のことが好きかと聞いているのです」 「質問の意図が解らない」 「言葉の儘です、好きか嫌いかが聞きたいのです」 強い調子ではないが、迫るものがある。 「―――それは恋愛的な意味で、ということか？」 「それ以外にありません」 羽虫がジ…と音を立てながら天井の電灯の周りを飛び回っている。 「どちらですか、好きですか、嫌いですか」 どうやら言い逃れることは許してくれそうもない。 （やれやれ…） 嘆息しながらも仕事机から立ち上がると、皮張りの椅子が軋みを上げた。 長靴(ちょうか)の踵を鳴らし、尚も真剣な眼差しを向ける弟の前に立つと、顔を間近にまで寄せてやる。 触れそうな程の至近距離で黒い眸が微かに怯んだ。 「私の感情が“好き嫌い”如きの物差しで測れると思うな」 白く賢そうな額を指で小突く。 「くだらない事を聞くな、仕事に障る」 呆然としている弟を残し部屋を出た。 羽虫は相変わらず部屋の中で電灯の周りを喧しく飛び交っている。 （走光性というやつか） 虫も厄介な習性を持っているものだ。 やがてあの虫たちは電灯の熱に焼かれ、翼を失ったイカロスのように墜ちてゆくのだろう。 それが光を求める者の運命(さだめ)というものだ。 しかしそれでもあの羽虫共は光を求めて止まない。 まるでイカロスが太陽に憧れ続けたように…―― 「極卒」 お前にその理由が解るだろうか。 これは好き嫌い如きの小さな単位で測れるものではないのだ。 羽虫がジリジリと音を立て灯の周りを飛び回っている。 所詮私もあの羽虫のような存在に過ぎないのだ。 end. 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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